もくじ
不貞(不倫)以前に婚姻が破綻していた場合
問題の所在
民法第709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。
ですが、不貞(不倫)以前から婚姻関係が既に破綻していたのであれば、不貞(不倫)によって婚姻関係が傷つくということもないので、損害は発生しないということになります。
また、最高裁判例は、有責配偶者からの離婚請求について高いハードルを課しています。しかし、不貞(不倫)をする以前から婚姻関係が破綻していたのであれば、不貞(不倫)によって婚姻関係が破綻したことにはならないことになります。すなわち、不貞(不倫)をしている者からの離婚請求であっても、有責配偶者からの離婚請求にはならず、高いハードルが課せられないことになります。
では、どのような状態であれば不貞(不倫)以前から婚姻関係が破綻していたといえるのでしょうか。
別居の事実と婚姻関係破綻との関係
婚姻関係が破綻しているかどうかの判断要素としてまず思いつく典型的な事情は別居です。もっとも、別居をしていればそれで即婚姻関係破綻といえるかどうかというと、これについては明確な基準が定まっておりません。
裁判官によって、別居後に関係が始まったのであるならば婚姻関係破綻後の不貞(不倫)であると単純に考える場合もあれば、別居後にそれなりの期間が経過しなければ、婚姻関係破綻後の不貞(不倫)と考えない場合もあります。
別居以外の破綻原因
別居以外の要素としては、家庭内別居状態、セックスレス、口論が絶えないなどを一般には思いつきやすいです。しかし、これらを原因として婚姻前の破綻を認めることには、裁判所は非常に慎重です。なぜならば、婚姻前の破綻を認めてしまうと、慰謝料は完全にゼロ円になってしまうからです。
一方、婚姻関係が破綻していたとまではいえないが円満を欠いていた、希薄であった、悪化していた、危機的状況であったなどと評価される場合には、慰謝料額を低額に抑えることで、バランスを取ることが可能だからです。
一方、破綻原因として認められやすい要素としては、慰謝料を請求者する側も不貞(不倫)をしていた、DVやモラルハラスメントを行っていた、互いに離婚意思を表明して離婚への協議をしていたなどがあります。
立証の問題
今までの話は、あくまで全ての事実関係を裁判官が把握していることが前提となっています。しかし、裁判官は当事者ではないので、互いの主張に争いがある点については、証拠に基づいて判断をします。そして、証拠を提出するのは、当事者の責任です。
ですので、本当は配偶者が別居前から不貞(不倫)をしていたとしても、別居後に不貞(不倫)をした証拠しか手元になければ、不貞(不倫)は別居後に始まったという前提で破綻の有無が問題になります。
また、本当は不貞(不倫)をする以前から配偶者と離婚について話し合いをしていたり、配偶者が先に不貞(不倫)をしていたり配偶者からDV・モラルハラスメントを受けていたりしていても、これらについて証拠がなければ、既に婚姻が破綻していたと認められるのはかなり困難でしょう。