住宅ローンの問題
住宅ローンのある不動産とは、分解して考えると、不動産というプラスの財産と住宅ローンというマイナスの財産が、切り離すことができない状態になっているものといえます。ある程度ローンを支払い終わった分譲マンションや、長年住んでいてローンの大半を支払い終わっている戸建て住宅のような、不動産の価値が勝っている物件の場合、話は早いです。不動産の価値からローン残を引いたものが、その不動産の価値となります。不動産を売却して、残った代金を分与してもいいですし、不動産を取得することで、その価値を得たということにしてもいいです。
一方、ローン残の方が不動産の価値を上回っている、いわゆるオーバーローンの不動産となると、話は難しくなります。裁判上は、オーバーローンの不動産は財産価値がなく、財産分与の対象にはならないとされています。そのため、オーバーローンの不動産について、どちらが済むのか、どちらが取得するのか、どちらがローンを払い続けるのかということを、裁判官に一刀両断に決めてもらうことはできず、当事者の話し合いによって決めなければなりません。
また、養育費や婚姻費用の権利者が住宅ローンのある不動産に居住し、支払義務者が住宅ローンを支払う場合、住宅ローンの支払額の一部は養育費や婚姻費用に充当されるものの、全額が養育費や婚姻費用に充当されるわけではありません。
DV・モラルハラスメントと住宅ローンの問題(財産分与)
DV・モラルハラスメントと住宅ローンの問題は、直接的には関係しません。不動産の価値がローン残よりも上回っている場合は、特に問題は起きません。
しかし、オーバーローン物件の場合、財産分与については裁判の判断で決めることはできないので、話し合いで解決しなければなりません。ところが、DV・モラルハラスメント案件では、加害者との話し合いが非常に困難なのです。オーバーローン物件の扱いについてお互いの利害や要望が合致している場合は話しが早いのですが、お互いの要望が相反している場合には、処理が非常に難しくなります。
オーバーローン物件の扱いについて、DV・モラルハラスメント加害者との話し合いが決裂した場合、現状が維持されることになるでしょう。法律上の所有者は不動産の所有名義人、実際の居住者はその時点で居住している者、ローンを支払うのはそれまでローンを支払っていた者といったところです。もっとも、財産分与がなされずにオーバーローンの不動産の処理が中に浮いたままというのは不安定です。話し合いが決裂したときの状況になるべく近い形での処理を最終的な着地点の目標として、何とか話し合いを成立させる方が望ましいです。そのためにも、最初から多くは望まない方がいいかもしれません。
DV・モラルハラスメントと住宅ローンの問題(養育費・婚姻費用)
DV・モラルハラスメントと住宅ローンの問題は、直接的には関係しません。ですので、住宅ローンを支払っている者が不動産に居住している場合は、特に問題は起きません。
しかし、住宅ローンを支払っている者と不動産に居住している者が一致しない場合(多くの場合、養育費・婚姻費用の支払い義務者が不動産に居住せずに住宅ローンを支払うということになるでしょう)、DV・モラルハラスメント事案特有の問題が生じます。
DV・モラルハラスメント加害者が不動産に居住せずに住宅ローンを支払い、被害者が不動産に居住するという形を取るとなると、加害者が住宅ローンの支払いを止めてしまうと、自宅が処分されてしまいます。つまり、DV・モラルハラスメント被害者の生活が、加害者の一存に大きく左右されてしまうことになるのです。これは、あまりよい状況とは言えません。
一方、DV・モラルハラスメントが不動産に居住し、被害者が住宅ローンを支払うというケースですが、こちらはこちらで被害者にとって負担が非常に大きくなってしまいます。特に、子供が未成年のうちは養育費と一緒に住宅ローンを支払うという合意をしている場合、子供が成人したら自宅の処理はどうなるのかという問題が残ります。住宅ローンを支払う者と不動産に居住する者が分かれる形で処理をするのは、互いの間で信頼関係が築けていることが前提になります。互いの信頼関係を構築しにくいDV・モラルハラスメント案件において、住宅ローンの支払義務者と不動産の居住者を分けることは、あまり得策ではありません。